RAMO & KAMIOKA WEEKLY 第2号 / 2026-06-21

第二号・空に線を引く夜に

本号のテーマ 其の一 社会・規制 / 其の二 経済・宇宙 / 其の三 暮らし・経済
其の一 ・ 社会・規制

空に線を引く、いう仕事

今週の一面 改正ドローン規制法が成立し、空港や重要施設の周囲で無人機の飛行が禁止される範囲が、従来よりおよそ1キロ広げられることになった。安全保障やテロ対策が理由とされている。 出典: 時事ドットコム
中島らも 中島らも

ドローンの飛んだらあかん範囲が広がる、か。……俺はな、こういう『禁止』の話を聞くと、灘の高校時代を思い出すねん。いちばん頭のええ先生が『人と違うことはいけません』と真顔で言いよった。俺はそれ聞いて、勉強する気が一切失せてもうた。規制いうのはたいてい、危ないもんを止めるふりして、はみ出すもんを止めてるんやな。

上岡龍太郎 上岡龍太郎

らもさんはそう言うけどね、僕は規制そのものより、理由の言い方が気にいらんのです。『安全のため』『テロ対策』。これね、報道のヘリコプターと一緒なんですよ。事故現場の上をブンブン飛んで、その爆音で生き埋めの人の声が聞こえへん。助けるためや、いうて何百人分の声を消してる。空に線を引くのは結構。けど『誰のための線か』を言わずに引くやつは、たいてい自分の都合を安全と呼び替えてるんです。

中島らも 中島らも

うまいこと言うなぁ。まぁでもな、俺みたいなもんは線があったほうが安心する側でもあるんや。酒でも『今日はここまで』いう線が自分で引けたら、こんな苦労せえへんかった。引けへんから、線は外から引いてもらうしかない人間もおる。ドローンも人間も、そう変わらんのちゃうか。

上岡龍太郎 上岡龍太郎

そこですよ。問題は、外から引く線がどんどん太うなることなんです。一キロが二キロ、二キロが三キロ。気がついたら空に上がられへん。昔は楽屋いうて、芸人が素を出せる内側があった。テレビが来て、その内と外の区分けが消えた。今はもう、どこも他人の目の中です。線を引くほど、人は自分の素を出す場所をなくしていく。これはもう、決まってるんです。

中島らも 中島らも

そやなぁ。まぁ、空ぐらいは広いままにしといてほしいけどな。引かれた線の内側で、それでもどう面白う遊ぶか、いうのが人間の腕の見せどころなんやろ。知らんけどな。

窓の外、星はまだ、誰の許可もいらずに光っていた。

其の二 ・ 経済・宇宙

金は、星まで逃げるか

今週の一面 米宇宙企業スペースXが上場し、ナスダックでの調達額が史上最大を記録した。同じ週、東京株式市場は連日の最高値更新で一時7万円台をつけ、世界的に投資マネーの膨張が続いている。 出典: 時事ドットコム
中島らも 中島らも

宇宙の会社が史上最大の金を集めた、か。株も七万円て。……俺な、若い頃は金がのうて、夜は星ばっかり見てたんですよ。金がないと、不思議と空がよう見える。で、夢いうのはな、才能やのうて、しつこさやと思うんや。続ける力。星を見続けたやつだけが、いつか宇宙に行く。まぁ俺は、見続けてただけで終わったけどな。

上岡龍太郎 上岡龍太郎

らもさんはそう言うけどね、僕はこの金の動きが、帰れない旅人の話に見えるんです。人は旅に出て、ふと元いた場所に帰りたなる。でも、もう帰られへん。それがわかってから本当の旅が始まる。今、金は地球に居場所をのうして、宇宙まで旅に出てる。けど宇宙には帰る家がない。膨らんだ金は、行った先で帰り道を探して、結局どっかで迷子になるんですよ。

中島らも 中島らも

こわい話やなぁ。でもまぁ、人間が上を向くこと自体は、俺は嫌いやないで。下ばっかり見てたら、財布の中しか見えへん。たまには首が痛なるくらい上を向いて、アホみたいに『宇宙か……』とつぶやくのも、ええ夜の過ごし方やと思うけどな。

上岡龍太郎 上岡龍太郎

上を向くのは結構。ただね、夢と、夢に値札をつけるのは別なんです。スペースXが悪いんやない。問題は、ロマンに史上最大の値がついた瞬間、それはもうロマンやのうて商品になってる。みんなが『次は宇宙が儲かる』と言い出したら、もう終わりかけてる証拠です。いいものを望んだらあかん。今が頂点や思て、これから落ちる覚悟をしときなさい。そのほうが、星をきれいに見られますよ。

中島らも 中島らも

ははは、出たな、いつもの覚悟しなさい。まぁええわ、覚悟しとくよ。落ちるとこまで落ちても、星だけはタダやからな。さ、もう一杯。知らんけどな。

グラスの底に、小さな星がひとつ沈んでいた。たぶん、照明の加減で。

其の三 ・ 暮らし・経済

白い飯に、塩

今週の一面 高止まりが続いていたコメの相対取引価格が、2カ月ぶりに下落に転じた。物価高が暮らしを圧迫するなか、主食であるコメの値動きに関心が集まっている。 出典: 時事ドットコム
中島らも 中島らも

米が、ちょっと下がった、と。……物価の話になると、俺はどうも調子が出えへんねん。なんせ長いこと、飯より先に酒が胃に入る生活やったからな。米のありがたみより、米から造った酒のありがたみのほうをよう知ってる。これは、自慢にならん話やけどな。

上岡龍太郎 上岡龍太郎

らもさんはそれでええんです。けど僕はね、米の値段がどうのこうのと騒ぐ風潮そのものに言いたいことがある。白いご飯に塩かけて、塩鮭が一切れあったら、もう上等なんですよ。ものがうまいのまずいの、高いの安いのと言うやつは、いっぺん考えてみなはれ。今この瞬間、世界の半分は飢え死に寸前です。それをわかってて言うてるんか、と。これはもう、決まってる話なんです。

中島らも 中島らも

いや、ほんまやで。俺、入院してた時にな、点滴だけの日が続いて、退院して最初に食うた白い飯が、涙出るほどうまかった。あれはどんな高級料理にも勝った。腹が減ってる、いうのは、いちばん上等な調味料やったんやな。ふだんはそれをみんな、金で消そうとしてるだけで。

上岡龍太郎 上岡龍太郎

その通り。値段いうのはね、ありがたみを忘れた人間が発明した目盛りなんです。安うなったら喜んで、高うなったら怒る。けど目盛りばっかり見てたら、肝心の『うまい』が消えてしまう。米が下がったというニュースを見て、ほっとする前に、いっぺん塩むすびを握ってみなはれ。値段やのうて味で、世の中をはかり直す。それがいちばん安うて、いちばん確かな経済対策ですよ。

中島らも 中島らも

ええ話で締まったなぁ、今日は。じゃあ次の一杯は……いや、やめとこ。今日はやめて、明日にしよか。その明日が、また明日になるんやけどな。

閉店。土鍋の底のおこげみたいな夜が、ふたりの後ろで静かに冷めていった。

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